投稿日:2025年3月29日 | 最終更新日:2025年3月30日
マーケティングで商品やサービスの特徴を訴求することは一般的です。しかし、本当に人々の心を動かすのは「なぜ、その商品やサービスを提供しているのか?」という根本的な理由(=「Why」)です。企業やブランドが「Why」を明確に伝えると、顧客はその理念に共感し、強い絆を築く可能性が高まります。そうした背景を深掘りしながら、本記事では「ゴールデンサークル理論」についてわかりやすく解説し、そのマーケティング活用法を紹介します。
カフェの例を挙げると分かりやすいでしょう。単に「美味しいコーヒーが飲めます」と言うだけでは心に残りにくいかもしれませんが、「忙しい日常の中で、ホッと一息つきながら活力を取り戻してほしい」という“なぜ”のメッセージを添えると、お客様はより共感し、利用したくなるものです。こうした感情に訴えるアプローチこそ、ゴールデンサークル理論が提示する価値の本質と言えます。
- ゴールデンサークル理論とは?基本の『Why』『How』『What』を解説
- ゴールデンサークル理論とSTP分析・4P分析の違いを理解する
- ゴールデンサークル理論がマーケティング戦略に与える影響
- ゴールデンサークル理論を活用したマーケティング戦略の立て方
- 『Why』が重要な理由:ゴールデンサークル理論と顧客心理
- 成功事例に学ぶゴールデンサークル理論を使ったマーケティング戦略
- ゴールデンサークル理論と最新トレンドとの連携
- ゴールデンサークル理論を活かすための実践ポイント
- YouTubeのご紹介:サイモン シネック: 優れたリーダーはどうやって行動を促すか
- まとめ:ゴールデンサークル理論をマーケティング戦略にどう活かすか
ゴールデンサークル理論とは?基本の『Why』『How』『What』を解説

ゴールデンサークル理論とは、サイモン・シネック(Simon Sinek)氏が提唱した考え方で、企業や組織が「なぜ(Why)」「どのように(How)」「何を(What)」という順番でコミュニケーションを取るべきというフレームワークです。従来のマーケティングやセールスでは、「What」や「How」に注目しがちでしたが、本質的に顧客の心を動かすのは「Why」であると強調されています。
『Why』:目的や信念を明確にする
「Why」はゴールデンサークルの中心に位置し、企業やブランドが存在する理由や使命、ビジョンを指します。例えば「地球環境を守りたい」「人々の生活を便利にしたい」などの大義名分や信念がこれに当たります。経営者や創業者の想いが凝縮される部分でもあり、他のどの要素よりも感情的な訴求力が強い要素です。
『How』:価値や独自性を示す方法
「How」は、「Why」を実現するための独自の方法やノウハウを指します。競合との差別化や、ブランドがどのように独自性を打ち出すかを説明する段階です。具体的には「最新のAI技術で顧客体験を革新する」「フェアトレード原材料を仕入れる」といった独特のプロセスやコンテンツ制作方針などが含まれます。
『What』:提供する商品やサービスの具体的内容
「What」は最も外側に位置し、企業が最終的に提供する製品やサービス、ソリューションなどの具体的内容を示します。従来のマーケティングではこの「What」から説明する場合が多かったのですが、ゴールデンサークル理論では最後に伝えることで「Why」に根ざした強いメッセージを補完する形となります。
ゴールデンサークル理論とSTP分析・4P分析の違いを理解する

STP分析や4P分析は従来のマーケティング・フレームワークとして有名ですが、ゴールデンサークル理論とはアプローチや目的が異なります。ここでは、それぞれの違いを整理します。
ゴールデンサークル理論とSTP分析の比較
- STP分析:Segmentation(市場分割)、Targeting(ターゲット選定)、Positioning(ポジション確立)を通じて、どの顧客層に、どのような位置づけでアプローチするかを決める。
- ゴールデンサークル理論:企業やブランドの根源的な「なぜ(Why)」を軸に、顧客と感情的な共感を形成する。
STP分析が市場や顧客層を客観的に分析して戦略を立てるのに対し、ゴールデンサークル理論は「企業がなぜ存在し、どんな価値観を持っているか」を軸に「共感」を生むことにフォーカスしています。両方をうまく組み合わせることで、顧客ターゲットの選定からコミュニケーションまで整合性の取れたマーケティングが可能になります。
これにより、STP分析は市場競争の中で優位性を確保するための客観的な戦略立案に役立ちますが、ゴールデンサークル理論はより感情的・理念的なアプローチを強調します。
ゴールデンサークル理論と4P分析の比較
- 4P分析:Product(製品)、Price(価格)、Place(流通)、Promotion(販促)の4つの観点からマーケティング施策を練る。
- ゴールデンサークル理論:Why(なぜ)を中心に、How(どのように)、What(何を)の順で価値を伝える。
4P分析が「どんな製品を、いくらで、どこで、どうやって販売するか」という実践的・戦術的な側面を重視するのに対し、ゴールデンサークル理論は企業の存在意義や信念をどう打ち出すかという戦略・理念的な側面を強調します。両方を補完的に使うことで、「企業の信念」に基づいた上で、具体的にどう売っていくかを決められるようになるわけです。
これにより、4P分析が市場での競争を見据えた具体的な施策を強調する一方で、ゴールデンサークル理論は企業の本質的な目的や使命を顧客に伝えることに重点を置いています。
ゴールデンサークル理論がマーケティング戦略に与える影響

企業が「Why」を軸にマーケティング戦略を組み立てると、以下のような効果が期待できます。
ブランドの信頼感を向上させる
企業の核となる信念や目的が顧客に伝わると、ブランドへの信頼度が上がります。「なぜこのビジネスをしているのか?」に共感できると、顧客は単なる取引先ではなく、パートナーとして応援してくれます。
例えば、「環境保護のために」というWhyを持つ企業は、その姿勢自体が顧客からの信頼を獲得し、ブランド価値を向上させることができるのです。
顧客とのエモーショナルな繋がりを強化する
機能的なメリットや価格だけでなく、「Why」による感情的価値が顧客の購買を後押しします。結果的に、ブランドへの愛着や長期的なロイヤルティを生み出しやすくなるのです。
例えば、「子供たちの未来のために」というWhyを掲げる教育関連の企業は、親や教育者の心に強く響き、長期的な関係性を構築しやすくなります。
競合との差別化が図りやすくなる
同じ商品ジャンルでも、「企業が何のために存在し、その価値をどう考えているか?」が異なれば、存在感やブランドイメージに大きな差が生じます。ゴールデンサークル理論は、差別化が難しいレッドオーシャンの市場でも、独自の理念で勝負できる手段となります。
ゴールデンサークル理論を活用したマーケティング戦略の立て方

ゴールデンサークル理論を組み込んだマーケティング戦略を策定する際は、以下のステップを踏むとスムーズです。
ブランドの『Why』を明確にする
まずは、企業やブランドが「なぜ」存在するのかを再度見つめ直します。創業者の想い、社会問題へのアプローチ、従業員が共有している理念などに着目し、感情的・理念的な核を文章化することが大切です。
具体的には以下の方法がおすすめです。
1. 創業時の想いを振り返る
2. 従業員全員で「なぜ我々は存在するのか」についてブレインストーミングを行う
3. 顧客の声を分析し、自社が解決している本質的な課題を特定する
顧客ターゲットに合った『How』を設定する
「Why」を具現化するための具体的手段(「How」)を、ターゲット顧客のニーズや市場動向と照らし合わせて検討します。競合分析や技術の活用、サービス提供の独自性などを考慮し、ブランド独自の価値提供方法を定義しましょう。
実践する際の注意点として、以下が挙げられます。
• 競合他社との差別化ポイントを明確にする
• 顧客にとって価値のある独自性を見出す
• 実現可能で持続可能なアプローチを選択する
『What』を通じて価値を具体的に伝える
最後に、実際に提供する商品やサービス(「What」)の特徴や品質を「Why」「How」と一貫したメッセージで表現します。商品開発や広告制作、SNS投稿などの際、常に「Why」の視点を踏まえると、顧客に強い印象を残すことができます。
あなたの企業では、商品やサービスがどのように「Why」を体現していますか? 顧客に対して、その価値をどのように伝えていますか?
『Why』が重要な理由:ゴールデンサークル理論と顧客心理

「Why」が強調される理由は、人々の購買行動が論理だけでなく感情に大きく左右されるという点にあります。
共感を呼び、ブランドへの忠誠心を高める
人は自分と同じ価値観を持つブランドや企業に強い共感を覚えやすいものです。例えば、「世界を持続可能にしたい」という想いに共感すれば、そのブランドへのロイヤルティが自然と高まります。
購入決定の動機付けを強化する
顧客は商品スペックや価格よりも、「なぜこの商品は存在しているのか」「どんな想いで作られているのか」に心を動かされることが多々あります。これが購買行動の背中を押す決定要因となるのです。
『Why』が顧客の感情に働きかけるから
脳科学的にも、「Why」は大脳辺縁系に直接訴求するといわれています。理性ではなく、感情や本能に訴えかけることで、より深く記憶に刻まれ、行動を促す力が強まります。結果として、ブランドの印象が強く、ポジティブなものになりやすいのです。
成功事例に学ぶゴールデンサークル理論を使ったマーケティング戦略

実際に、ゴールデンサークル理論を効果的に活用している企業の事例を見てみましょう。
Appleのブランド成功の要因
Appleは「違いをつくる(Think Different)」という「Why」で知られ、常識にとらわれない発想を提唱。これを「直感的でシンプルなデザイン」(How)や、「革新的なiPhoneやMac」(What)で実現し、世界的に熱烈なファンを獲得しています。
この戦略により、Appleは単なる技術企業を超えた、創造性と革新のシンボルとしてのブランドイメージを確立しました。顧客は製品を購入するだけでなく、その背後にある理念や生き方に共感し、強い愛着を持つようになったのです。
スターバックスのエモーショナルな訴求
スターバックスの「Why」は「人々の日常に、小さな特別を提供する」こと。これを「フレンドリーな接客と心地よい空間作り」(How)を通じて行い、最終的にコーヒーやフードという商品(What)で具現化しています。「サードプレイス(第三の場所)」というコンセプトが強い共感を呼んでいます。
この戦略により、スターバックスは単なるコーヒーショップを超えた、顧客の日常生活に欠かせない「第三の場所」としての地位を確立しました。顧客は単にコーヒーを飲むだけでなく、スターバックスでの体験全体を楽しみ、そのブランドに強い愛着を持つようになりました。
パタゴニアの社会的使命を強調した戦略
パタゴニアは「地球環境を保護する」ことを「Why」に掲げ、「環境に配慮した素材や製法」(How)を採用し、アウトドア用品を提供(What)。これにより、顧客は商品を買うことで環境保護に参加している感覚を得られ、ブランドへの強いロイヤルティが生まれます。
この戦略により、パタゴニアは単なるアパレルブランドを超えた、環境保護運動のリーダーとしての地位を確立しました。顧客は製品を購入することで、自分も環境保護に貢献しているという実感を得られ、ブランドへの強い支持につながっています。
テスラの環境と社会に対する使命
テスラは「持続可能なエネルギーへの移行を加速する」という「Why」を明確化し、「電気自動車技術と再生可能エネルギーの活用」(How)で、電動自動車やエネルギーソリューション(What)を展開。顧客はただ車を買うのではなく、「環境保護に貢献する」という使命を共有している感覚を得られます。
この戦略により、テスラは単なる自動車メーカーを超え、環境問題への解決策を提供する企業としてのブランドイメージを確立しました。顧客はテスラの製品を購入することで、環境保護に貢献しているという意識を持ち、企業の社会的使命に共感しています。これにより、テスラは現代の消費者の共感を呼び、強い支持を集めています。
これらの成功事例から、あなたの企業はどのような学びを得ることができますか? 自社の「Why」をどのように強化し、顧客に伝えていくことができるでしょうか?
ゴールデンサークル理論と最新トレンドとの連携

現在、SDGsやESG投資が注目される中で、企業には社会的責任や環境への配慮が求められています。ゴールデンサークル理論においても、「Why」をサステナビリティや社会的課題の解決に関連づけることで、より多くのステークホルダーの共感を得やすい状況が生まれています。
例えば、環境保護やサステナビリティに焦点を当てた企業が「Why」を明確にし、その理念に基づいた製品やサービスを提供することで、顧客の共感を得るケースが増えています。
特に、消費者が企業の環境への取り組みに敏感になっている現在、企業は「なぜ私たちがサステナブルである必要があるのか」を再考し、それを中心に据えた戦略を展開することが求められています。
ゴールデンサークル理論とAI・テクノロジーとの連携
AIやDX(デジタルトランスフォーメーション)が進む中で、企業が得られるデータも膨大になっています。これを活用して顧客の潜在ニーズや行動パターンを分析し、彼らの「Why」と企業の「Why」をマッチングさせることが可能です。結果的に、よりパーソナライズされたコミュニケーションが実現し、顧客との絆が強化されます。
これにより、企業は顧客の感情や価値観に寄り添い、より深いレベルでのつながりを築くことができるでしょう。
ゴールデンサークル理論を活かすための実践ポイント

ゴールデンサークル理論を企業活動やマーケティング戦略に取り入れる際に、特に意識しておきたいポイントを以下に示します。
ブランドの核となる『Why』を定期的に見直す
社会情勢や事業環境は変化し続けます。初期に設定した「Why」が、長期間を経て依然として有効かどうかを定期的にチェックしましょう。例えば、年に1回の経営方針見直し時などに、「我々のWhyは、いまも顧客に響いているか?」と自問自答することが大切です。
具体的には以下の方法がおすすめです。
1. 経営陣や従業員を交えたワークショップを開催し、現在の「Why」の妥当性を議論する
2. 顧客アンケートや市場調査を実施し、自社の「Why」が顧客のニーズと合致しているか確認する
3. 社会トレンドや業界の変化を分析し、「Why」の更新の必要性を検討する
従業員にも『Why』を共有し一貫性を保つ
企業の理念はトップだけでなく、現場を含む全従業員に行き渡ってこそ意味があります。オンボーディングプログラムや社内研修で「Why」を軸に話し合い、一致した価値観を形成すると、ブランド一貫性が強化されます。
実践する際の注意点として、以下が挙げられます。
• 新入社員研修や定期的な全体会議で「Why」について説明し、議論する機会を設ける
• 「Why」を体現している従業員を表彰し、好事例を社内で共有する
• 人事評価の項目に「Why」の実践度を含める
顧客体験に『Why』を反映させる
広告やSNS投稿、店舗設計、商品のパッケージデザインなど、顧客が触れるあらゆる接点で「Why」を体現する工夫を忘れないようにしましょう。例えば、エコを「Why」に掲げるブランドが、エコフレンドリーな素材や省エネの店舗運営を進めるなど、具体的な行動で訴求することが欠かせません。
例えば、「人々の健康的な生活をサポートする」という「Why」を持つ企業であれば、以下のような取り組みが考えられます。
1. 商品パッケージに健康に関する豆知識を掲載する
2. カスタマーサポートで単なる問題解決だけでなく、健康的な生活のアドバイスも提供する
3. SNSで健康的なライフスタイルに関する情報を定期的に発信する
このように、あらゆる顧客接点で「Why」を体現することで、ブランドの一貫性が強化され、顧客の印象に深く刻まれるのです。あなたの企業では、「Why」をどのように顧客体験に反映させることができるでしょうか? 既存の顧客接点を見直し、「Why」をより強く表現できる方法を考えてみましょう。
YouTubeのご紹介:サイモン シネック: 優れたリーダーはどうやって行動を促すか
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まとめ:ゴールデンサークル理論をマーケティング戦略にどう活かすか
「なぜ、私たちはこの事業を行っているのか?」
これを真剣に考え、メッセージとして顧客に伝えることで、単なる商品・サービス以上の価値が生まれます。「Why」を核に据えた企業は、顧客と深いエモーショナルな繋がりを築き、長期にわたるブランドロイヤルティを獲得しやすいのです。
本記事で紹介したように、ゴールデンサークル理論は他のフレームワーク(STP分析や4P分析など)と組み合わせることで、より効果的なマーケティング戦略を構築できます。ポイントは、「Why」からすべての施策を始めること。自社の強みや競合優位を語る前に、「なぜそのビジネスをやるのか?」を明確にして顧客と共感を結ぶのです。
2025年現在、ESGやDXが大きく注目される中、企業が打ち出す「Why」はますます重みを増しています。サステナビリティや社会的課題への貢献を、ただのスローガンで終わらせず、「Why」に結びつけることで本当の差別化が可能になるでしょう。
この理論が自社のマーケティング施策や企業文化全体に与えるインパクトは計り知れません。ぜひ今一度、自社の「なぜ」を見直し、顧客・社会に深く共感されるブランドへと進化させてみてください。
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カッティングエッジ株式会社 代表取締役 竹田 四郎
WEBコンサルタント、SEOコンサルタント。WEBサイトの自然検索の最大化を得意とする。実績社数は2,500社を超える。
営業会社で苦労した経験より反響営業のモデルを得意とし、その理論を基に顧客を成功に導く。WEBサイトやキーワードの調査、分析、設計、ディレクションを得意とする。上級ウェブ解析士、提案型ウェブアナリスト、GAIQの資格を保有する。著書:コンテンツマーケティングは設計が9割