投稿日:2024年4月15日 | 最終更新日:2024年10月1日
「ローコンテクスト(ローコンテキスト)」と「ハイコンテクスト(ハイコンテキスト)」。ビジネスにおいて使われることが増えているこの言葉の意味をきちんと理解されていますか?
相反するコミュニケーションの取り方ではありますが、自らが置かれている立場や相手との関係性を理解した上で使うことで、クライアントとのコミュニケーションがより有効、有益なものと変わっていきます。
今回は、WEBの制作や運用の場面においてどのように使うべきか?をご紹介します。
そもそも「コンテクスト」とは?
多くの日本人にとって「コンテクスト」という言葉は耳馴染みのある言葉ではないでしょう。英語では「Context」と書くこの言葉。
翻訳される際には「文脈」と訳されることが多く、「背景」や「状況」、「場面」といった意味で使われると考えるとわかりやすいかも知れません。
ビジネスにおいては「コンテクストを読む」といった形で使われ、ビジネスをする相手がどのような文脈、経緯、背景をもって発言や行動をしているか?を考えたり、する場面に登場してきます。
実は多くの人たちは日常的に「コンテクスト」を使うもの。言葉の裏にあるものや、ストレートには伝えてきていない部分について「コンテクスト」を読むことによって補完、推測などをするのが日本人。「コンテクスト」は本当の意図を読み解く必要が多く登場する日本人にとって欠かせないものでもあるのです。
「ハイコンテクスト」は日本人の根底に流れている
日本人には身近である「空気を読む」「阿吽の呼吸」「以心伝心」といった考え方は「ハイコンテクスト」の最たるものと言えるかもしれません。
日本は島国で戦後国際化が進むまではほとんど単一民族によって構成されてきた社会あり、文化的背景の共有がしやすい状況だったこともハイコンテクストが根付いた一つの理由と考えられます。
仲間意識や絆、協力、連携などを大切にしてきた日本という国の地理的・民族的要因こそ日本がハイコンテクスト文化である理由に色濃く表れているものと考えられます。
ハイコンテクストになりやすい言語的背景
言語的な背景を考えてみると、同音異義語が多い日本語においては音だけを聞き取った際、どうしても文脈を理解した上で、適切な意味へと変換することが求められます。
例えば「貴社の記者は汽車で帰社した」という言葉。これは、日本語ワープロを開発していた際に実際に使用されていた例文の一つです。
同じ「きしゃ」と入力されたとしても、それぞれ
・あなたの会社という意味の「貴社」
・物書きという職業の名称としての「記者」
・交通機関としての「汽車」
・会社へ戻るという意味の「帰社」
複数ある候補から瞬時に判断し、正確な意味を導き出すには「コンテクスト」を読んで導き出すことが求められるのです。ストレスなく、正しい単語を候補として表示させることは日本語ワープロの開発において非常に苦労したポイントだと言われています。
日本人が文脈や背景を考えることに慣れているのはこういった言語的特徴というのも大きいでしょう。
「おもてなし」は世界では少数派
プロジェクトの状況や、クライアントとの関係性、これまでの流れや背景などの「文脈」を読み取って理解し、行動に落とし込むことは日本社会においてある意味「美徳」とされている部分でもあります。
京都の方から「ぶぶ漬けでもどうどす?」とお茶漬けを勧められた場合には「また今度」と返して早めにお店やお宅から失礼するといった話もあるように、日本においては相手に対して直接的な表現を投げかけるのはあまり好まれません。
思っていることをストレートに相手にぶつけてしまうことは日本社会に於いては、礼を欠くと捉えられてしまったり、無粋なものとして多くの人が避ける傾向も。
「ハイコンテクスト」をすぐにやめるというのは日本という土地で育ってきた「日本人」である以上、難しいこととも言えるでしょう。多くの日本人は考え方や行動の根源にあるものとして受け入れているため、日本で仕事や商売をするのであれば「ハイコンテクスト」をベースに進めたいと考えているのが実情でもあるのです。
「おもてなし」という言葉にも象徴されるように「相手がこうしたいのではないか?」と先読みをして「痒いところに手が届く」ようにしておくことというのは「非常に日本人らしい」と見られるような行動ですが、世界においては少数派であると認識しておきましょう。
単なる焼き直しではなく、新たなスタッフも含めてブランドそのものを再定義し、時代に合わせた展開なども行うことによって、リブランディングしなければ生まれなかった売上を作ることができるというのはリブランディングをおこなう大きなメリットと言えます。
海外は「ローコンテクスト」が主流
海外(特に欧米など)においては「私はこうして欲しい」とハッキリ自らの要求を口にし、「求められた側は要求を満たすものを提供する」といったローコンテクストな考え方が多数を占めています。
ストレートな物言いをするのに抵抗を感じる日本の文化とは異なり、「空気」や「背景」といった曖昧なものに頼るのではなく、言葉により重きを置いてコミュニケーションを取るのが「ローコンテクスト」である欧米を中心とした海外の文化です。
ローコンテクストにも言語的要因がある
言語的な部分で言えば、「同じ意味を持つ多数の単語が存在し、それぞれ微妙に異なるニュアンスを単語の選択によって示すことができる」というのがローコンテクスト文化となった背景の一つであると考えられています。
「見る」なら「look/see /watch /view」などがありますが、
・視線を向ける(意識的に)は「look」
・注意深く見る「watch」
・意識せずに見る、視界に入るなら「see」
・眺めるといった意味合いを持つ「view」
もちろん、同音異義の単語も存在し、その判断には文脈を読み解く場面というのも少なからず存在しますが、それぞれに具体的な意味を示す単語があるため文脈をそこまで強く重視しなくても大きな問題とはなりにくいのです。
コロナ禍を経て日本もローコンテクストが進む?
日本においても、コロナ禍においてリモートワークが広く進んだ頃から「明確な指示や目的をより確実性を持って伝える」というコミュニケーションとして「ローコンテクスト」を求める声も高まる傾向になっています。リモートワークが浸透する以前は、デスクを並べ同じ空間で仕事をすることによって、相手の持つ空気や雰囲気を感じながら仕事を進めることができたため、ハイコンテクストでも仕事を進めやすいという背景はありました。しかし、各自が家から業務を行うようになってからは意思や意図をより明確にすることでなるべく行き違いを無くすコミュニケーションが必要となっています。
このような場面においては、ローコンテクストによる意思疎通が非常に役立つ場面となっています。
WEBサイト制作や運用において向いているのは「ハイコンテクスト」か?「ローコンテクスト」か?
ではサイトの制作の場面においては「ハイコンテクスト」と「ローコンテクスト」どちらが向いているのでしょうか?
それぞれどのような場面に向いているのか?も含めて考えてみたいと思います。
制作や開発における要件定義と条件・要望を伝える場面には「ローコンテクスト」が向いている
あなたが制作の依頼主である場合、どのようにディレクターやデザイナー、フロントエンジニアへと注文を伝えればいいと考えますか?
「この機能を入れたい…でも、予算的に難しいかな?」「上がってきたデザインのイメージがちょっと違う…言ったら打ち合わせの空気悪くなるよな」そんな風にハイコンテクストな状態だと本当に欲しいものが出来上がることは稀。最終的に出来上がるのは、妥協の産物です。
依頼主がまず伝えるべきことは
・どんなものを作りたいのか?
・どんな機能が必要か?
・デザインの参考にしたいサイトやデザインのトーンを合わせたいものがあるか?
・予算はどの程度確保できるのか?
・仮に予算をオーバーする場合、どの部分から削れるのか?の優先順位
といったことです。
これ対して制作側は
・予算と工数/機能面の兼ね合い
・納期と作業日程のバランス
・納品後の保守や運用サポートにおける役割と範囲
などを判断し、「できる/できないこと」や最終的な見積もりを出すことが可能となるのです。
どのようなものを作り、運用していくか?という軸となる部分を決める場面についてクライアント側がきちんと要望を口にすることは、コンテクストに頼り過ぎずにコミュニケーションを取ることができるため、齟齬が生まれにくくなります。
また、制作サイドからは納品後の保守や運用サポートについてローコンテクストな形で役割を確定しておくことによって、月額の運用・保守などにおける範囲とそれ以外の部分を決めておくことが可能となります。
月額の範囲で対応する部分と、有償対応として新たにマネタイズできる部分というのがはっきりするというのは制作サイドにとっても利点です。
ローコンテクストが故、そもそもの「言った/言わない」が発生しないやり取りであり、意向確認もしやすくなることから、後から「そんなつもりで言ったわけじゃない」というようなことも少なくなるでしょう。
ローコンテクストにおいて注意すべきこと
「ローコンテクスト」において押さえておくべきポイントとしては『「遠慮」をし過ぎる必要は無いが、「配慮」は必要である』ということです。
「遠慮して言わない」ということをすると、その時点でローコンテクストの前提が崩れしていまいますので、成果物に対してのY E S/NOのジャッジや、方向性のズレなどが起きていると感じた場合にはハッキリと判断を伝えるべきです。
しかし、ローコンテクストに文化的にあまり慣れていない日本人が、無理に舵を切り過ぎ、言葉選びを間違ってしまうと棘のある言葉にもなってしまいますので、注意しておきましょう。
ハイコンテクストが染み付いている日本人であれば、そこまで大きな失敗をすることは無いでしょうが、どんな場面においても相手へのリスペクトの心を忘れない関係性を築くことが求められます。
運用システムの構築などの制作フェーズにおいては「ハイコンテクスト」があるとより良いものに
では、ハイコンテクストはどのような場面に用いるべきでしょうか?
「クライアントの要望を実現する」という最低限のハードルを越えるには「ローコンテクスト」的なコミュニケーションと、行動が向いています。特に「取り敢えず、すぐにランディングページだけでも作ってアップしておきたい」など納期が迫ったものであれば尚更です。しかし、制作の場面においてはそれだけでは成り立たない部分も当然出てくるのです。
ハイコンテクストがより向いている場面
例えば「コーポレートサイトのリニューアルをしたい」というような、「制作だけでも数ヶ月、しばらくシステムも大枠のデザインについても大幅な変更をしないで社内担当者を決めて運用を続ける」プロジェクトの場合。
実際のWEB運用をする際に、クライアント(ユーザー)がどのような方法で運用するのか、更新を行うのか?という行動を考えた上でシステムを設計・構築していくという場面においては「ハイコンテクスト」な考え方が当然求められます。
日常的に触ることになるユーザーのWEBやコーディングに関する知識などを考慮した上で、CMSを選択したり、CMSをデフォルトの状態のまま使用するのではなく、実現したい機能に合わせたプラグインを導入したりすることによって、コンテンツの追加・更新における利便性の向上を図り、「より優しい運用システムを実現する」ということが可能になります。
ハイコンテクストなコミュニケーションにおいて注意したいこと
クライアント/ユーザーファーストなシステムを構築するにあたっては、「ハイコンテクスト的な考え方」は非常に良いものであることをお分かりいただけたと思います。しかし、日本人が陥りがちなのはハイコンテクストを貫こうとするが故に、工数がかかり過ぎてしまうということです。
ユーザーに優しい丁寧なものを作るという志を高く持つことは大切ですが、それを実現するために自らの作業工数や時間を犠牲にしてしまうフロントエンジニアやディレクターも存在します。
ハイコンテクスト的なおもてなしの心や気の利いた操作性遠というのは非常に良いものですが、度が過ぎてしまうとクライアントからいただくことのできる対価を超えたものにもなりかねません。
成果物の要件定義を満たした上で、機能性については予算や納期の幅を出ない範囲でのおもてなしの心が重要なのです。
コンテンツ制作やブランディングという場面においてはどちらがより向いているのか?
ここまではシステムの構築におけることを軸に考えてきましたが、広告展開やサイト/S N Sなどを利用した対外的発信の際はどちらを選ぶべきなのでしょうか?
ブランディング・コンテンツ制作における両者の比較
ここで、それぞれが用いられるテレビコマーシャルを例に考えてみたいと思います。
【ローコンテクスト的な手法】
・軽自動車
ファミリーが車に乗り込む、燃費が良い、広い車内空間、小さいボディでも沢山の買い物した商品が積み込めるなどをアピール
・ローコスト住宅
坪当たりの単価をアピール。若年層でも家を建てられることを軸に、20代〜30代前後の若い夫婦や子供を含めた家族が出演する映像
・ティーンも使えるコスメブランド
「どれだけ盛れるか?」をアピール。マスカラを使えばよりまつ毛長く印象的に見える、「一つのパレットにさまざまな色が含まれているからお得」といった点を打ち出す
【ハイコンテクスト的な手法】
・高級車
車の走行シーンが中心。渋い日本人俳優または外国人モデルが運転している。
・ハイグレードマンションブランド
周辺の自然環境(木漏れ日/小鳥の囀りなどのイメージ)、建物周辺に整備されている住民専用庭、高級感を感じさせるエントランス、おしゃれなリビングでにこやかに食卓を囲む家族、ベランダに佇む住民
・ブランド化粧品
特徴的な香水の瓶の形をモチーフにした映像を展開し、最後に商品名とブランド名だけを表示する
誰にでもわかりやすく、伝わりやすいのがローコンテクスト
ローコンテクストな手法が用いられているものとして「軽自動車」「ローコスト住宅」「ティーンにも使えるコスメブランド」を紹介しました。
「安い!早い!美味い!」という牛丼チェーンの宣伝文句もありますが、より直接的な表現であるため短い言葉でも強いメッセージ性を感じさせることができるというのがローコンテクストな打ち出し方の特徴です。
また、アメリカのコマーシャルにおいて見られるものとしては、他社製品との直接的な比較表現もあります。日本においてはこれらが明確に禁止されているわけではありませんが、ハイコンテクストな表現に慣れている日本人は反感や嫌悪感を覚える人も多いため、多くの企業は自社のイメージを下げるような手法を避けることが基本です。
スーパーのチラシを見ればわかるように「価格」という非常にわかりやすい尺度で訴求することは見る人によって刺さりやすいローコンテクストの表現となっています。これは低価格な商品には向くかも知れませんが、高級感を打ち出したい商品やサービスのブランディングにはあまり向かないかも知れません。
想像の余白をもって伝えるハイコンテクスト手法
ハイブランドと呼ばれるような海外企業や、国内メーカーにおいても高価格帯の商品/サービスを提供・展開する企業の広告やW E Bで提供されるコンテンツはよりハイコンテクストになる傾向が見られます。
もちろんすでにブランドとして広く世間における認知が確立されているか?という点や、購買層/広告ターゲットの違いというのもありますが、より高級感を感じてもらいたいものをブランディングする場合には、コンテンツの中でスペックや価格がそこまで前に出ることはありません。
イメージを丁寧に伝え物語を紡ぎながら「その車に乗ったら。その家に住んだら。そのブランドを身に纏ったら。」ということを想像してもらうための材料としてコマーシャルやW E Bコンテンツを提供しています。
受け取る側が「想像する余白」をもってコンテンツを提供することがハイコンテクストの特徴とも言えるでしょう。
商品/サービスの特性を理解した上でシーンで使い分けることができる
コンテンツ制作やブランディング広告の発信においては「受け取る人にどう感じてもらいたいか?」を考えて使い分けるべきであることがお分かりいただけたと思います。
概ね、高級な商品やサービスでは「ハイコンテクスト」がコンテンツ制作においても採用され、低価格なものにおいては「ローコンテクスト」手法が選択される傾向が高いとは言えるのではないでしょうか。
自社が提供する商品やサービスについてブランディングの方向性をしっかりと議論を重ね、固めていくことよって、「ロー/ハイ コンテクスト」どちらを選ぶべきか自ずと決まってくるはずです。
敢えて受け手に意外性を持って伝えたいときは比較的低価格な商品の武rナンディングにハイコンテクストなコンテンツを採用してみるのも面白いかも知れません。
ローコンテクスト/ハイコンテクストまとめ
「ハイコンテクスト」「ローコンテクスト」それぞれについて紹介してきました。
日本人は従来からハイコンテクストなコミュニケーションに慣れ過ぎている側面もあり、相手にもそれを求めてしまう傾向がありました。それは決して悪いことだけではありませんでしたが、自己犠牲的な考え方に立ってサービス残業で仕事をこなしてしまうといった結果にも多少繋がっているところがあったはずです。
そこには「ローコンテクストにも良さがある」と気づき始めていながらも目を瞑り、否定してきてしまった歴史も持ち合わせています。
「ハイコンテクスト気質」とでも言うべきものを文化的ベースに持ち合わせている日本人にとっては「どちらか?」という二者択一ではなく、W E B制作や運用、ブランディング・コンテンツ制作においては柔軟さと曖昧さをもって「どちらも」と欲張ってみるのも悪くありません。
シーンや立場・役割によって、上手に使い分けることができればベストなものを生み出すことができるのではないでしょうか。
カッティングエッジ株式会社 代表取締役 竹田 四郎
WEBコンサルタント、SEOコンサルタント。WEBサイトの自然検索の最大化を得意とする。実績社数は3,000社を超える。
営業会社で苦労した経験より反響営業のモデルを得意とし、その理論を基に顧客を成功に導く。WEBサイトやキーワードの調査、分析、設計、ディレクションを得意とする。上級ウェブ解析士、提案型ウェブアナリスト、GAIQの資格を保有する。著書:コンテンツマーケティングは設計が9割