投稿日:2025年3月15日 | 最終更新日:2025年3月17日
インバウンドマーケティング(Inbound Marketing)とは、見込み客に「自社の発信する情報を見つけてもらい、自社サイトやSNSへ自然に誘導する」手法です。旅行業界で使われる“インバウンド需要”(外国人観光客が自ら日本を訪れる)をイメージすると分かりやすく、企業が積極的に追いかけるのではなく、顧客が自ら見つけてやって来るという点が特徴となっています。
従来のような一方的プッシュ(アウトバウンドマーケティング)ではなく、顧客自ら情報を求めてアクセスしてもらうやり方は、2025年現在も大きなトレンドとして注目されています。本記事では、なぜインバウンドが支持されるのか、その背景や具体的なフレームワークを解説し、合わせてコンテンツマーケティングとの関連にも触れていきます。
立場逆転。「追われる」ようになるのがインバウンドマーケティング

- 自社サイトで役立つ情報を発信する
- ブログで優良コンテンツを継続的に投稿する
- ホワイトペーパーやeBookを無料提供してリードを獲得する
- ニュースリリースで広く情報を発信する
- 専門的な解説動画をYouTube等で公開する
こうした施策を通じて、検索エンジンやSNSで自然に見つけてもらうのがインバウンドマーケティングの基本。アウトバウンドのように「広告を大量に出して追い回す」という手法とは対照的です。
「自ら売り込みすぎず、見込み客が“探し当ててくれる”戦略」
と聞くと受け身に感じるかもしれません。しかし、現代の消費者はプッシュ広告に過敏になりつつあり、過剰な追尾広告(リターゲティング広告)を「うざい」「監視されているみたいで気持ち悪い」と敬遠する傾向が強まっています。
インバウンドマーケティングは、嫌われる可能性を最小限に抑えながら、必要としているユーザーだけを有効に取り込むという時代に合ったスタイルなのです。
一見攻撃的・積極的ではなく、守備的・消極的な施策にも見えるため「アウトバウンドマーケティング」に慣れている人からしたら、違和感やその効果に対する不安・疑問が出てくるかもしれません。しかし「インバウンドマーケティング」こそが時代にフィットしたマーケティング手法なのです。
「追いかけられ過ぎる」と「逃げたくなる」のは人間の心理

たとえば、オフラインの世界でこんなことが起きたらどうでしょう?
- 突然見ず知らずの営業マンに何度も声をかけられる
- しつこく追尾され、意図しない接触が続く
- 「あなたにピッタリの商品があります」と押し売りされる
現実であれば不審に思うし、嫌な気持ちになるでしょう。
オンライン広告でも似たようなことが起こっています。閲覧履歴を基に延々とリターゲティングされ、ユーザーの行動が追い回される形です。一定数の人は「これ便利」と思いますが、多くの人が「しつこい」「不気味」と感じるケースも増えているのです。
サイトの回遊状況を分析されたり、閲覧した商品ページの履歴からレコメンド広告で商品をおすすめされたり、興味の無い広告を何度も目にする、あるサイトを閲覧したらそれ以降競合業者と思われるバナーがバンバン表示されるようになる。
「あっ!買うの忘れてた」「へ~。こんな商品あるんだ」「おっ、新商品だ!買わなきゃ」そんな風にプラスに捉える人ももちろんいますし、便利な世の中になっていると思う瞬間もきっとあることでしょう。しかし、これらの状況を諸手を挙げて受け入れている人ばかりではないのです。人によっては『気持ち悪い』と感じたり、『もういい加減にしてくれ』と嫌悪感を抱いたりすることも、当然あるでしょう。
さまざまな背景からアウトバウンドマーケティングが敬遠される理由

- プライバシー規制の強化
クロスサイトトラッキングやCookie利用に対して、EUのGDPRをはじめとする法規制が厳しくなり、ブラウザでもサードパーティCookieブロックが標準化されてきました。 - ユーザーの反感
執拗なターゲティング広告は、一歩間違えると「監視」や「ストーカー広告」と呼ばれ、企業イメージを下げるリスクがあります。 - Appleなど大手テック企業のプライバシー重視
iOSでアプリのトラッキング許可を厳格化するなど、企業が用いていたアウトバウンド型施策の成果を得にくくなっています。
執拗に追いかけられると逃げ出したい、嫌だと感じるのは人間の心理からすれば当然。全く追いかけないというやり方は難しいですが、「追いかけ過ぎない」ことが広告には求められ始めています。
なぜここまでアウトバウンドが嫌われてしまったのか?
昔はテレビや新聞など、一方向メディアからの情報を受け取るのが当たり前でした。しかし、SNSやウェブ検索が普及すると、ユーザー自身が能動的に情報を探して選ぶ世界へと移行。
企業が一方的に押し付ける形のアウトバウンド手法は、時代にそぐわなくなったのです。
今は、ユーザーが「欲しい情報を自ら探しに行き、気に入ったものを発信する」時代。インバウンドマーケティングは、この新しいユーザー行動に合致した手法と言えます。
例えば、主婦向けのテレビ番組で「ココア」が健康に良いと紹介されれば、翌日にスーパーの売り場からココアが姿を消すといった現象が起きていた時代もあります。もちろん、今でもテレビをはじめとするメディアの影響は大きく、それによって流行の波が作られる側面はあります。
しかし、現代においてユーザーはWEB検索やSNSの検索機能を用いて自らが能動的に情報を探すことができるようになりました。そして規模を問わない企業や好きなブランド、情報を積極的に発信する個人などとSNSを通じて直接つながりを持つことも出来るようになったのです。
多くのユーザーにとって「情報を与えられ、それをありがたく思うだけの時代」はもう終焉を迎えたのです。SNSなどを通じて流行の波を作ろうとする個人も増加し、今やメディアがSNS上の流行を追いかけるようにもなりました。
ユーザーが時代の変化に伴って、与えられ追いかけられる側から、発信し追う側へと急速に変化を遂げていることこそがアウトバウンドマーケティングに対する嫌悪にもつながっていると言えるでしょう。
インバウントマーケティングに用いられえるフレームワーク
インバウンドマーケティングでは、次の4段階がよく取り上げられます。
- ATTRACT(惹きつける)
- CONVERT(転換する)
- CLOSE(顧客化する)
- DELIGHT(満足させる)
このステップを踏むことで、見込み客が自ら情報を発見し、購入・利用まで導き、さらに継続的にファンとして支持してもらう流れがつくれます。
ATTRACT(惹きつける)
まずはまったく自社を知らない潜在ユーザーに認知してもらうフェーズ。
- SEO対策されたブログ記事
- SNS発信
- ホワイトペーパーや事例集の無料提供
- ニュースリリースなどの露出
などを通じて、「こんな情報探してた!」「役立ちそうだ」と思わせるコンテンツを提供し、能動的にサイトへ来訪させるのが狙いです。
この段階でセールス色の強い主張をすると警戒されがち。あくまで有益な情報や知見を提供して関心を惹きつけるのが基本方針です。
興味関心を抱きやすいコンテンツとしては、ユーザーの持つ悩みを解消する商品やサービスだったり、ユーザーが待ち望んでいた画期的な機能や希望を叶えるようなサービスであることが重要となります。
過去に関係性のあったユーザーや顧客のデータを基にして、年齢層・性別・居住地・家族構成・職業などより具体的なペルソナを想定していきます。その人が抱えている問題点や悩みはどういったものであったか?そのユーザーはどんなキーワードでサイト流入する可能性があるのか?などを緻密に考え、すべてを逆算してコンテンツの制作をおこないます。
まずは自分たちの存在を知ってもらうために、どういったコンテンツを用意すれば「見つけてもらえるのか」を考え、知ってもらうチャンスを得ることがこの段階では大切です。
CONVERT(転換する)
サイトを訪れた潜在顧客を、次の段階(リード獲得)に転換させるフェーズです。
- メールアドレスや電話番号などを入力してもらう
- 見積もりフォームや資料請求フォームを用意
- eBookや詳しいマニュアルをダウンロードしてもらう
ここでユーザー情報を得られれば、メールやMAツールを使って継続的にコミュニケーションを図れます。
このステップでは、フォームの項目が多すぎると離脱されるリスクが高いので、最低限の項目をうまく設定することがポイントです。
CLOSE(顧客化する)
獲得したリードを実際の顧客に育成する段階です。
- 興味・関心の度合い(リードスコア)を測り、適切な提案をタイミング良く行う
- ガツガツした売り込みは避け、ユーザーの悩みや要望に応じたパーソナライズされた情報を提供
- オンライン商談・セミナー・実証デモなど多様な形で信頼感を高める
しかし、ここで考えておくべきことはユーザーがまだ取捨選択や比較検討といった段階にあるかも知れないということ。ここで相手の温度感を見誤って、ガツガツと営業をしかけてしまうと逆に相手が引いてしまったり、良くない印象を抱いてしまうということも考えられます。
MAツールなどを活用できるのでれば、積極的になりすぎずより具体的な課題や温度感の情報のみを引き出して、しばらくは最適な距離感を図りながら付かず離れずの状態をキープして様子を見るということも大切でしょう。顧客化という重要な局面だからこそ慎重な対応が求められます。
「ユーザーがまだ比較検討段階なのか、購入目前か」を見極め、押し売りにならない距離感を保ちつつ、スムーズにコンバージョンへ繋げます。
DELIGHT(満足させる)
購入後は終わりではありません。ユーザーに満足してもらい、継続利用や口コミを促すフェーズです。
- 定期的なフォローアップメールやマニュアル更新
- FAQやサポート体制の充実
- アップセル・クロスセルの提案(ユーザーが価値を感じる形で)
特にSNSが発達した今、満足した顧客がSNS上で情報発信してくれると、新たな潜在顧客へ波及効果が期待できます。リピートや紹介によって、インバウンドの循環を生み出すことがインバウンドマーケティングの最終ゴールとも言えます。
顧客化できたら、それで終わりと考えてしまいがちな営業マンもいるでしょう。ですが、ここからが、もう一段大切な部分となります。釣った魚に餌をやらないような状況はインバウンドマーケティングにはよくないのです。顧客満足を追求し過ぎて負荷がかかりすぎるのは決して良いこととは言えませんが、提供した商材によって顧客が満足を感じなければ何の意味もないのです。
継続的に商材に対して感じている不満や、さらに求めているものをサポートしながら顧客の満足度を上げるとともに、商品やサービスは磨かれていきます。それだけではなく、満足感を感じた顧客は新たな顧客を生み出す情報の発信地となり得るのがこのステージ。インバウンドで訪れた顧客が、新たな顧客を生み出すというのがインバウンドマーケティングの大きな特色なのです。
まとめ
インバウンドマーケティングは、「ユーザーが自ら求めている情報を見つけ出し、納得して購入・利用まで至る」プロセスを、企業がコンテンツや仕組みを通じて支援する手法です。
アウトバウンドで多用される“しつこい広告”に対する反発やプライバシー保護の流れが強まる2025年において、インバウンドはよりユーザーフレンドリーで時代のニーズに合った戦略と言えます。
- ATTRACT:有益なコンテンツを発信して興味を惹く
- CONVERT:リードへ転換し、継続的に接点を持つ
- CLOSE:適切なタイミングと提案で顧客化
- DELIGHT:満足度を高め、リピートや口コミを誘発
この4ステップを取り入れると、従来の“押し売り”型とは異なるアプローチでロイヤルティが高い顧客を増やすことが可能です。また、コンテンツマーケティングと併用すれば、質の高い情報発信から自然とリードが集まり、持続的な集客基盤を構築できます。
自社の商品やサービスにまだアウトバウンドマーケティングが主流だと感じる方も、今こそユーザーの心理を意識しながら、インバウンド型施策を試してみてはいかがでしょうか。丁寧にコンテンツを積み重ねることで、時間はかかっても安定してファン化を進められるのがインバウンドの強みです。


カッティングエッジ株式会社 代表取締役 竹田 四郎
WEBコンサルタント、SEOコンサルタント。WEBサイトの自然検索の最大化を得意とする。実績社数は2,500社を超える。
営業会社で苦労した経験より反響営業のモデルを得意とし、その理論を基に顧客を成功に導く。WEBサイトやキーワードの調査、分析、設計、ディレクションを得意とする。上級ウェブ解析士、提案型ウェブアナリスト、GAIQの資格を保有する。著書:コンテンツマーケティングは設計が9割